「なぁーんもだ」

遅れているバスを待っている人たちは皆、コートの襟を立て言葉少なである。 連日のマイナス気温で道は凍り、空気がぴりぴり張りつめている。 パンと手を叩くと凍った空気の壁を音が伝わって響いてきそうだ。

そんな中「しばれるねぇ。どこさ行く」。「なぁーんもだ、ちょっと用足しだ」と言う声が聞こえてきた。

札幌へ来てすぐの頃、この「だ」という断定の語尾に当惑した自分を思い出した。 頂き物のお礼に電話をかけたら「なぁーんもだ」と言われ、何でもない事にぐだぐだ言わなくていい、と突き放されたようで、どう返事をしていいのかわからず無言で受話器を持ったままいた。

断定するのを避け、人との関係を微妙につなぎとめようとする関西ことばとは全く違うニュアンスだった。さしずめ大阪弁なら「なんでもあらへん。わざわざ電話もろうて悪かったなぁ。気に入ってもろたら嬉しいねんけど」位になる。 かなりの語数である。

語尾に へん、なぁ、ねん、と ご丁寧に「念」まで組み込まれている。 相手にこちらの気持ちをどうぞ察して頂戴と言わんばかりである。 断定することばはどこにもない。

しかし今、寒さの中で聞こえてきた「なぁーんもだ」は、妙にしっくり耳に馴染んだ。厳しい寒さや雪に対し、北国の人は驚くほど冷静に黙々と従う。 自然の力には逆らえない人としての素直さかもしれない。 言葉の余韻など必要ないのだろう。 気候風土がその土地の言葉を作っていくと改めて感じる。

バスを待つ人々の短い会話も途切れがち。 綿毛みたいな雪が舞い降りてくる中、遠くにこっちへ来るバスが見えた。 やっと乗れる安堵感が辺りの硬く凍りついた空気を少しゆるめてくれたような気がした。


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