味噌汁用のねぎを刻む。 いつものように、いつものまな板で。 一体どれ位こうして料理してきたのか、ふと手を止め考える。
娘ふたりの成長に応じてメニューは増え、ピザやパスタ、餃子や春巻き、和洋中の多種多様な料理を作ってきた。
夫や娘たちが頬張る笑顔は、私の喜びであり達成感でもあった。
娘たちが独立し、夫婦ふたり暮らしの今、太りすぎの夫のため、悪玉コレステロール値が高い私のため、野菜中心の献立を考えるも、あり合わせの食事が続く。
が、たまにごちそうを作りたくなる時がある。 冷蔵庫を覗き込み、役者を探す。 解凍したのを忘れかけてた牛ももの塊、野菜室にはキャベツ、きゅうり、ほうれん草、大根、にんじん等、十分である。
ローストビーフとサラダ、味噌汁と決めた。 我が家自慢の手作り味噌は洋食とて欠かせない。
お肉が焼きあがり、グレービーソースも出来た。 ほうれん草を茹で、ポテトサラダも完成。 生野菜を切り盛り付ける。 久しぶりのご馳走に、夫の顔が浮かぶ。
結婚以来続いてきた食事作り、いつものように、いつもの台所で。
遠い時間の向こうから、娘たち家族や、これまで一緒に食事した人たちの笑い声が蘇る。
今夜の食事は夫婦ふたり。 ちょっとお洒落にワインを開けて。
夫は一体どんな笑顔をくれるだろうか。