「年の瀬に」

豪華なお正月食品の折込ちらしに年末年始の営業日が記載される頃、大人たちの気ぜわしさはピークを迎える。

その昔、小学生の私は年の瀬の大人たちの忙しさが好きだった。 台所でご馳走を作る母、床の間や部屋を片付ける父、近くに住む祖母や叔母がひんぱんに我が家へ来て、母と何やら打ち合わせをしている。 お正月をのんびり過ごすための忙しさだ と母から教えられた。

そんな大人たちとは裏腹に、私は“ひま”だった。 ひまな私に仰せつかったのが、お餅を焼くお手伝い。 

練炭火鉢の網の上で焼くのである。 当時でも珍しかった練炭火鉢。 毎朝早く、母が練炭をおこし、我が家のダイニングにどっかり座っていた。 やかんのお湯がしゅんしゅん沸くと、みんながお茶を飲みに集まっていた。

網の上に並んだお餅を眺めて、時々裏返す。 中まで焼けると、切れ目からぷくっ~とふくれ上がる。 その一瞬、ふくらみ目掛けて、箸を突き刺す・・ちょっと快感、楽しみだった。 ぷしゅっ~と情けなくしぼんだお餅ではあるが、食べごろになっている。

焼きながら、練炭の奥を覗き込む。 黄色がかったオレンジ色の底抜けに明るい輝きの世界。 熱ですぐ顔が火照るので、長くは見ていられない。 眩しさから解放された後の私の瞳の奥で、色とりどりの妖精たちがしばらく踊っていた。

危ないから覗かないように、母からよく注意されたものだったが。

オレンジの世界に胸踊り、空想の世界に遊んだ子どもの頃。 ゆっくり流れたその時間が、時空を越えてつながってくる。

大人の忙しさ真っ只中にいる今の私。 家族の喜ぶ顔が嬉しくて、今年もお正月のご馳走を楽しみに作ります。 みんなが健康で素敵な一年になりますように の祈りを込めて。


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